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今こそ「オープンガバメント」の推進を!-東日本大震災・被災者支援で必要な視点(谷本晴樹「政策空間」編集委員)

阪神淡路大震災があった1995年、後にこの年が「ボランティア元年」といわれたように、東日本大震災のあった本年は、いずれ「オープンガバメント元年」と振り返られる時がくるのではないだろうか。

今回の震災を契機として、「オープンガバメント」と呼ばれる、政府の情報公開と官民の新たな連携が、急速に進んでいる。この流れをより強固なものとし、さらに拡大していくことが、現在の支援活動をより効果的なものにするだろう。そして長引く避難生活での二次被害を防ぐことに繋がるはずである。そこで本稿では、この震災で登場した「オープンガバメント」の萌芽について紹介しつつ、これから乗り越えるべき課題について検討していきたい。

 
1.「オープンガバメント」とは何か

オープンガバメントとは、分かりやすく一言で言えば、インターネット技術を活用し、政府を国民に開かれたものにしていこうとする取組みである。以前から政府が進めている「電子政府」との違いは、電子政府の取組みが、主として従来の行政の手続きを、簡素化する、あるいは利用者の利便性を高めるというところに重点が置かれているのに対し、「オープンガバメント」は、それだけでなく、政府が持っているデータベースを、APIapplication programming interfaceなどの形で提供することで、新たな公共サービスを民間ベースで生み出すことを促し、そうして生まれた新しい公共サービスを通じて、政治への市民参加も促そうというものである。政府は公共サービスを生み出す「自動販売機」ではなく、民間が公共サービスを競う「プラットフォーム」であるべきだという。これまでの政府あり方そのものに変更を迫るものであることから、「Gov2.0」とも呼ばれている。

オバマ大統領は、このオープンガバメントを政策の柱として誕生した。そして「透明性(transparency)」、「市民参加(participation)」、「協働(collaboration)」という三原則掲げ、これまでに様々な取り組みをしている。日本でも、内閣府の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT本部)」が2010年5月に出した報告書「新たな情報通信技術戦略」において、オープンガバメントが明記された。そしてその後、タスクフォースが設けられ、具体的な展開について議論されていた。ただ長年の縦割り行政に伴う、これまでの慣行を打ち破るには、多くの課題があることが認識されていた。

2.震災ではじまった、民・官の連携とオープンガバメント

3月11日に震災が起こってから5日後、政府は内閣官房内に「震災ボランティア連携室」を設置した(室長:湯浅誠内閣府参与)。これは、政府が集めた情報を、現地で活動する、あるいはこれから活動しようと考えているNPOやボランティアに正確な情報を届け、窓口を一本化することにより、縦割り行政による弊害を未然に防ごうとするものである。そして22日に発足した民間の「助け合いジャパン」に対し情報提供を開始した。民間のプロジェクトに国がこのような形で協力するのはおそらく初めてだろう。

助け合いジャパン」のサイトでは、政府・省庁などからの最新情報が見られるほか、先行して情報の発信をしていた、様々なソーシャルメディアの情報を組み入れている。

例えば、サイト内の「ボランティア情報ステーション」のページでは、災害地にある社会福祉協議会からの、ボランティア募集情報をみることができるが、これは、そもそも有志がwikiを通じて作った「東日本大地震地震『災害ボランティア情報』まとめサイト」という独立したサイトであった。また震災情報マップもあるが、こちらは「sinsai.info」の情報を組み入れている。

sinsai.info
は、地震発生からわずか7時間後には立ち上げられている。オープンソースであるushahidiを使うことで、場所から情報を得たり、場所に関連させて情報の発信ができる。例えば、選択した特定の地点から20キロの範囲内で、安否確認、店舗の開店情報などの新しい「レポート」が入ると、「アラーム」を受け取ることが出来る。そのほか、消息情報確認用に、Google パーソンファインダーが埋め込まれている。これは、名前を入力すると、パーソンファインダー内にある消息情報が表示され、携帯電話番号を入力すると、各携帯電話会社の災害伝言板の登録情報が表示されるようになっている。4月1日現在、約60万件超の記録が登録されている。こちらでも、行政からの情報提供による協働が進んでいて、岩手県や福島県、警察などが情報を提供している(ただ、避難所にある消息情報は多くが「紙」である。多くの方がそれを、デジタルカメラで写して、デジタルデータとして公開し、被災地の外に住むボランティアが手作業で情報を打ち込み、チェックし、パーソンファインダーにアップロードしている。中には行政が作ったであろうプリントアウトされた資料を一から打ち込んでいるものもある。このようなものであれば、まさしくテキスト形式で公開してもらうだけで、手間も時間も大分節約できるのではないだろうか)。

さらに、行政の提供する情報を利用することで、既存の地域SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)も、被災者支援に役立っている。例えば、盛岡の地域SNS「モリオネット」では、岩手県から提供された情報をもとに、Googleマップに避難所や安否情報を掲載している。この「モリオネット」から、全国の地域SNSに協力が広がり、「学び応援プロジェクト」という、ノートや鉛筆などを被災地の子どもらに送る活動がされている。

またネットを中心とした、節電の運動も話題になっているが、こちらでも官民の協力が始まっている。3月23日、東京電力が電力使用状況について公開している画像やcsv形式でのデータから、金本茂氏(@ssci)が東京電力の電力消費量を返すAPIを作成、翌日、経済産業省情報プロジェクト室(@openmeti)は、これを活用したアプリを作ったら知らせてほしいと呼びかけ、優れたアプリは国でも取り上げていきたいと宣言した。実際に、このAPIを使って、計画停電対策アプリや、東京電力の消費電力情報表示ツールなどが開発されている。

そのほか、行政のデータベースがまとめられたサイトがHack for Japanにあるし、ALL311:東日本大震災協働情報プラットフォームは、公的機関が提供している地図・地理空間情報のデータベースを紹介している。このように、公共機関が持っているデータを公開し、それをもとに民間が優れた公共サービスを開発し、これをまた、国が積極的に取り上げることこそ「オープンガバメント」の中心であって、実際にオープンガバメントに熱心なアメリカなど欧米各国では、「民」から多様な「公共サービス」が生まれている。広範な被災地対策と、福島の原子力発電所対策という二正面作戦を強いられている中で、行政が住民に対してきめ細かな対応をすべて担うことは不可能である。であるならば、やはりここは「民のチカラ」の出番ではないだろうか。「民のチカラ」を引き出すために、政府の果たすべき役割は多いはずである。しかもそれは、行政に対し過大な負担を強いるものではない。行政が持っている情報をもっと公開する、それだけでも、様々な被災者支援に繋がるサービスが生まれるはずである。

.見えてきた今後の課題と求められる行政の対応

ただ、すでに様々な課題も見えてきている。まずHack for Japan等で紹介されている行政のデータベースをみれば、「利用できるデータ」がまだまだ少ないことがわかる。

また、「量」の問題だけでなく、「質」にも大きな問題がある。多くの情報がPDFあるいはExcelのデータである。例えば、全国社会福祉協議会・全国ボランティア・市民活動振興センターも、避難所の避難者数と災害ボランティア設置状況など、貴重な情報を発信しているが、こちらもPDFである。そこで財団法人地方自治情報センター(LASDEC)は、PDFやExcel形式でのファイルを避け、テキスト形式やCSV形式でのファイルの公開を推奨している。LASDECによれば、PDFやExcelのファイルが比較的容量が大きいため、すでに「サーバー・回線リソースを圧迫し、重要情報が閲覧できない事象が頻出」していると報告している。

一方で、支援する側の問題でもあるが、支援サイトが乱立気味である。現状、「支援サイトのまとめサイト」まであって、どこに必要な情報があるのか、どこがベストなのか分からない。そこで、情報が本当に必要な利用者に、結果的に時間を割いて、色んなサイトを見て廻るという負担をかけているかもしれない。もちろん現時点では、過少よりも過剰のほうが望ましいのであって、どれかを削除すべき、というわけではない。しかし、どこのサイトに上げられた情報でも集約され、かつ本当に重要な情報は、どのサイトでも共通してみられるという仕組み(データベースの一元化)が必要であるし、その点で、プラットフォームとしての政府の役割は大きいはずである。

また、これは特にジャーナリストの佐々木俊尚氏がこちらで指摘しているが、今回の震災では阪神大震災の教訓でできていた緊急時の情報伝達網が破壊されてしまっている。また、被災した地域は軒並み高齢化率が25%を越える地域であり、これまでの震災以上に、現地は「アナログ」なのである。佐々木氏が指摘されているように「アナログ」の情報を「デジタル」に、そして「デジタル」の情報をまた「アナログ」に変換していく作業が必要になっていくだろう。現場での活動との連携が必要とされているところである。
 
おわりに

「オープンガバメント」の掲げるプラットフォームとしての政府の役割は、このような緊急事態だからこそ、非常に大きいはずである。惜しむらくは、震災前にもっとこのような視点が行政に取り入れていたならば、スムーズな支援ができたと思うが、今からでも遅くはない。ぜひとも問題を解消しつつ、「オープンガバメント」を実効あるものにしてほしい。そのことによって、必ず被災者支援に役立つサービスがもっと生まれるはずである。今回の震災で、数多くのIT関係者が手弁当で献身的な活動を続ける姿をみるにつけ、私はそう確信している。

最後に、被災に遭われた方々に、心よりお見舞いを申し上げます。もし本稿がすこしでも被災者や支援に関わる方の一助になれば幸いです。

谷本晴樹プロフィール:
(財)尾崎行雄記念財団研究員、非営利活動法人Inter Press Service Japan 理事、「政策空間」編集委員。日本大学大学院国際関係研究科博士前期過程修了。国際政治学会、臨床政治学会所属。twitter:http://twitter.com/harutani

 

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