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INPS JAPAN   IDN-InDepthNews - UN INSIDER

なぜ核兵器を廃絶するのか(梅林宏道)

Mr. Hiromichi Umebayashi

IPSコラム=梅林宏道】

 

「なぜ核兵器廃絶なのか?」この素朴な問いが最先端の問題になっているように思われる。広島、長崎の原爆投下を経験した日本においては、核兵器のもたらす非人道的な惨害が核兵器廃絶を求める深い願望として存在している。しかし、これだけでは「核兵器のない世界」のビジョンを描くには不十分だ。核兵器廃絶の努力は、より平等で、公正で、人間的な地球社会を創り出そうとする挑戦に強く結び付くものでなければならない。

米国で新たに反核イニシアチブが始まり「核兵器のない世界」という概念が現実的な目標として再浮上したことで、私は改めてこの「なぜ」という問いに直面した。


貧困や気候変動といった問題に対するグローバルな取組みは、あたかも人間社会が律せられるべき暗黙の規範に導かれているかのように、当然のことと考えられる傾向にある。しかし核兵器廃絶運動は、それとは対照的に、国の安全保障との関連から個別兵器の問題の枠組みに閉じ込められがちである。核廃絶の問題は、倫理上の、グローバルな人間にかかわる問題として見られないのである。従って、核廃絶運動を成功させるためには、私たちは思考基盤において、より広い空間に出る必要がある。

 
私は10年前に元英国海軍中佐のロバート・グリーン著「核兵器廃絶への新しい道」を日本語に翻訳したが、それ以来ずっと気にかかっている問題があった。そこには、200年前の奴隷制度廃止運動と核兵器廃絶運動とのアナロジーを語る中で、「ただ奴隷制度の残酷さのみを語るのではなく、それを法的問題として語ることによって、奴隷制度廃止運動は成功した」という趣旨が述べられていた。


グリーン中佐の研究から教訓として学んだことは、国内法、国際法にかかわらず重要な法律を制定させた政治意志の背景には、人類が経験した時代時代の苦しみや苦悩が刻まれているという事実であった。そして、そのような法律には、制定過程で妥協を強いられたとしても、新たな時代を切り開く取組みにおいて活用できる法的規範、語法、概念体系が含まれていることを学んだ。


兵器を禁止・制限する国際諸条約の前文には基本的な法規範や原理が謳われている。しかし核兵器を制限する諸条約とその他の兵器に関するものとでは、その内容が大幅に異なっている。生物兵器禁止条約、化学兵器禁止条約、対人地雷禁止条約、そして最近のクラスター弾禁止条約には、「禁止は文明世界の当然の要件であり、人間の良心が命じる法に従うものである」として、人道的、道徳的根拠が明確に解説されている。一方驚くべきことに、核不拡散条約(NPT)や
包括的核実験禁止条約(CTBTのような核兵器に関する諸条約では、事情が全く異なるのである。

生物・化学兵器禁止条約にあるこれらの規範を読んだ読者は、これらすべては、核兵器の禁止・制限にとっても当然の規範として記述されるであろうと想像するに違いない。しかし、それは全くない。NPTCTBTのどこにも、同様の人道的・道徳的規範に関する記述はないのである。はたしてこのように脆弱な法的立場で、「核兵器のない世界」が実現できるのだろうか。


核兵器が上記のような規範状況に留まっている理由は明らかである。それは核兵器保有国の参加を確保するためにはそのような婉曲語法が必要だからである。しかしこのような手法を受入れている限り、国際社会は、核兵器の本質とそれが人類の未来の世代に及ぼす影響を踏まえた法規範を確立することに失敗するかもしれない。そうなれば、「核兵器のない世界」を、人類社会にとってより良い世界としてビジョンを描くことはできないだろう。


従って、私たちが取り組むべき第一の課題は、たとえ核保有国が、核兵器の未曾有の脅威に見合った倫理規範を規定しているがゆえに受け入れなかったとしても、なお有効であるような国際的な法律文書を確立する道を探求することである。


その方向性を示唆する試みとしては、レベッカ・ジョンソン女史が最近の論文(「軍縮外交」2009年春季号)の中で議論している、核兵器の使用・威嚇を禁止する条約案がある。ここでは、市民社会と同志国家が協力し合う、いわゆる「オタワプロセス」が有効なアプローチになるだろう。


また私たちは、今日の世界がいかに軍事力を背景とした威嚇外交によって歪められているか、そしてその最たる事例が核兵器使用の威嚇であったという事実を、詳細に明らかにしてゆく必要がある。国連憲章に謳われている「人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係」(第1条第2項)や「差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重する」(第1条第3項)といった規範は、核兵器の恐怖が支配する世界においては、決して実現をみることはないだろう。「核兵器のない世界」に向けた道のりは、人類がそのような規範が体現される新たな人道社会を思い描くことを可能にするようなものになるべきであろう。(原文へ
 
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


※梅林宏道はNPO法人ピースデポ(平和資料協同組合)の創設者・特別顧問。工学博士(磁性物理学専攻)。


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