CO2削減に向けたアジア地域におけるバイオマス利用の展望と提言(佐村秀夫DEVNET JAPAN評議員、工学博士)

【東京IDN=佐村秀夫】
アジア諸国、特にアセアン諸国は2015年末に経済共同体がスタートし、持続可能な成長に向けての諸施策を推進している。中でも需要が急増するエネルギーに関しては、アセアンのバイオマス賦存量は大きく、低炭素化に向けて各国はバイオマスエネルギーに強い興味を示し、研究開発の強化を図りつつある。
欧米では発電・熱利用や輸送用燃料のいずれの分野でもバイオマスエネルギーの導入が進んでいるが、アセアン諸国はやや出遅れている。
ただ、日本だけは技術開発に先行しており、アセアン諸国との地域連携や国を越えての人材交流を進め、イコールパートナーシップを持ってバイオマスエネルギー開発に貢献することが可能である。
小生の所属する公益社団法人日本工学アカデミーでは東南アジアのバイオマス利用の社会実装を推進する為に、2013年10月にバイオマスアジア・プロジェクトチームを立ち上げたが、そこで議論された重要項目を紹介する。
議論1 バイオマス発電・熱利用での利活用
バイオマス発電は、次のメリットを有している。
1)設備利用率は、バイオマス発電80%、太陽光発電12%、風力発電20%と利用率の高い安定電源である。
2)発電量を主体的にコントロールする事が可能なため、太陽光発電、風力発電のバックアップ電源になり得る。
3)使用する燃料を輸送することができ、太陽光発電や風力発電の様に必ずしも資源供給地に発電設備を建設する事を必要としない。
木質チップ・ペレットなどのバイオマスと石炭との混焼発電では、既存の微粉炭ボイラーを利用できる為、新規設備の投資が不要であり、発電効率も15%程度高い。その中でも、現在約3%に過ぎない石炭との混焼割合を30~40%に引き上げる事が可能な方法として最近トレファクション(半炭化)ペレットが注目されている。その特徴は、以下の通りである。
1)既存の微粉炭火力発電所への対応が可能な良好な粉砕性
2)輸送・貯蔵効率の向上に有利な高エネルギー密度
3)燃料としての取扱が容易な高い耐水性
アセアン電力供給源の70%を占める石炭火力発電所のCO2削減に向けて、半炭化ペレットの技術開発や実施体制を整えることを強く推したい。
議論2 輸送用液体バイオ燃料としての利活用
バイオエタノール、バイオディーゼル燃料(BDF)の化石燃料への混合割合を上げる事が有効である。中でも、最近注目の草本や農業廃棄物等のセルロース系バイオマスを原料とする第世代バイオエタノールや非食糧系油糧植物を原料とするBDFは、食料との競合が回避できる。しかし、これらは、原料や製造のコストが高い。バイオエタノールについてはコスト低減のための糖化方法、発酵や蒸留等に関する技術革新の推進、また、BDFでは安価な原料の入手が不可避であり、植物の品種改良や栽培技術の向上など今後の研究開発が求められる。
議論3 アセアン諸国におけるバイオマス利用の為のオープンイノベーションセンターの設立
アセアン諸国はグローバル経済の担い手であるとともに、エネルギーや環境問題で解決すべき課題の多くが共通しているが、一国でこれらの課題に対応することは事実上困難である。そこで、アジア各国が協力して、バイオマスオープンイノベーションセンターを設立し、社会実装に向けての技術開発に積極的に取り組み、人的交流を含めた多国間連携を推進するべきと考える。
提言 バイオマスの積極利活用に向けた取組
アジアにおけるバイオマス利用の現状は未だ黎明期と言えるが、今後の大いなる発展を睨み次の3点を提言したい。
1.化石エネルギー起源のCO2を低減する低炭素社会を構築するため、再生可能エネルギーを最大限度導入する必要がある。特にバイオマスエネルギーの利用推進は有効である。
2.その導入方策は2つに大別され、どちらも有効性が期待される。
バイオマス発電・熱利用:
既設の石炭火力発電所に於いて、バイオマスの混焼割合を増大させる。その為には、混焼率を高めることが可能なトレファクション(半炭化)ペレット製造技術の導入を推進すべきである。
輸送用燃料での利用:
第2世代のバイオエタノール(セルロースエタノール)、バイオディーゼル燃料(BDF)等の導入が重要であり、既存の化石燃料への混合割合を増大すべきである。その実現には、原料、製造のコスト低減のための技術革新、原料の安価で安定確保に向けたシステム、バイオ燃料利用に向けた政策誘導が必要である。
3.バイオマスエネルギーの導入に当たっては、バイオマスが豊富に賦存するアジア諸国で、二国間、多国間の広域地域連携でバイオマス利活用を推進するための体制を早急に構築すべきである。
DEVNET JAPAN ではアセアン諸国と連携を図り、国連の重要施策である温暖化防止・CO2削減を目標の一つと定め、これに関連する日本の創エネルギーや省エネルギー化技術の導入を進めるだけでなく、アジア地域における食糧増産、貧困解決に向けて適用可能な日本の先端技術を導入するプロジェクトを今後立ち上げてゆく予定である。(原文へ)
IPS Japan
佐村秀夫氏は、工学博士でDEVNET JAPAN評議員。(株)関西新技術研究所専務、(公財)日本産業技術振興協会専務理事、国立研究開発法人産業技術総合研究所代表、NPO法人 環境エネルギー技術研究所を経て現在に至る。材料開発、新規事業開発、知的所有権活用、経営全般に経験多々。
この記事は国際協力評議会がDevnet Japanと共同で実施しているメディアプロジェクトの一部。
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