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「中立性」を拒絶して人権の側に立つ博物館

A visitor looking at a panel at the International Slavery Museum in Liverpool, England. Credit: A.D. McKenzie/IPS【リバプール(英国)IPS=A・D・マッケンジー】

このイングランド北部の都市にある「国際奴隷制博物館」の現代版奴隷制度の展示は、人権に光を当て、そのテーマを「全面に出す」ことを選択した博物館のひとつの例だ。

「社会正義はそれ自体では実現されません。それには積極行動主義(アクティビズム)と、リスクを取ることをいとわない民衆の存在が不可欠です。」と語るのは、国際奴隷制博物館(ISM)を運営している国立リバプール博物館の館長を務めるデイビッド・フレミング博士である。

この博物館は、過去および現代の奴隷制の様々な側面に焦点をあてると同時に、「人権問題に関する資料の国際拠点になることを目指している。

2013年に発足し、現在では世界全体で80以上の博物館が加盟している「社会正義を求める博物館連合」(SJAM)の会員であり、2010年には「国際人権博物館連盟」(FIHRM)の立ち上げでも中心的な役割を果たした。

Dr David Fleming, director of National Museums Liverpool, which includes the city’s International Slavery Museum. Credit: National Museums LiverpoolFIHRMの目的は、「センシティブで対立含みの人権問題に関わっている」博物館同士の協力を促し、「好意的な環境で新たな思考と取組み」を共有することにある。フレミング氏はIPSの取材に対して、「いずれの組織も、博物館が変容していくあり様を反映しています。」「博物館は私情を挟まない主体というわけではありません。それは記憶を保護する役割を担っているのです。博物館の役割に目を向け、それがいかにして人生に変化をもたらせるかを見ていかねばなりません。」と語った。

国際奴隷制博物館で来年4月まで展示予定の「壊された人生」と題された特別展示は、現代世界の奴隷制の被害者について取り扱っている。その半分がインドにおり、大部分が「ダリット」、かつては「不可触民」として知られていた人々だとみられている。

学芸員によれば、この特別展示は「インドの現代奴隷制を通じて搾取され人権を侵害されているダリットなどの人々の経験を知る機会を提供するもの」だという。

「ダリットは依然として、社会的疎外と偏見に晒されながら極度の貧困下に生きることを強いられており、人身売買や債務労働の犠牲になりやすいのです。」と学芸員は付け加えた。

A poster sign for the ‘Broken Lives’ exhibition under way at the International Slavery Museum in Liverpool. Credit: A.D. McKenzie/IPSダリット解放ネットワーク」との協力で開催されているこの特別展示は、写真や映画、個人の証言等の手段を用いて、性奴隷や児童奴隷状態に置かれている人々の「苦難の物語」を紹介している。また、こうした人々の「壊された人生」を何とかしようと活動している人々についてもスポットライトをあてている。

この展示は国立リバプール博物館の特別展室にて行われているが、常設展では、大西洋奴隷貿易人種差別主義の遺産の惨禍に関する展示がなされている。

フランスの都市ナントにある「奴隷制廃止記念碑」や最近開館したばかりのグアドループにある「メモリアルACTe」と並んで、リバプールのこの博物館は、奴隷制に関する意識喚起を目的とした数少ない国立機関の一つであると識者らは言う。

「しかし、(フランス南西部)ボルドーのような場所での奴隷貿易に関する常設展にとっても、この特別展は『重要なインスピレーションの源』となっています。」とアラン・ジュペ市長は語った。ボルドー市では、「ボルドー、大西洋横断貿易と奴隷制」と題された包括的な展示がアキテーヌ博物館で開かれ、詳細で明晰な情報が提供されている。

Wikimedia Commonsこれらの博物館は、世界市民性を涵養する役割を果たし、民衆を教育し、人権の尊重や社会正義、多様性、平等、持続可能性などに関してこれまでとは違う発想を来訪者に提供しようとしている。

フレミング氏はIPSの取材に対して、「私たちは人権への闘いに公然と人々を巻き込もうと試みています。」「人種差別主義と戦うとの意志に燃えながらこの博物館を後にしてほしいと、いつも国際奴隷制博物館で話しています。」「何を考えたらいいのか、どう反応したらいいのかについて、他人に指示することはできません。しかし、ある雰囲気を創り出すことはできます。そして、この奴隷制博物館における雰囲気とは、明確に反人種差別主義的なものです。観覧者には『こんな酷いことがあったとは知らなかったが、もう考え方が変わった』と思いながら、博物館を後にしてくれたらと期待しています。」

リバプールが18世紀に主要な奴隷貿易港であったという否定しがたい歴史を持っているにもかかわらず、誰もがその歴史の事実を受け入れているわけではない。かつて、偏見を持つ人間が、博物館の目的を否定しようとして、博物館の壁にカギ十字を描いたこともあった。

「既に何らかの知識や一定の態度をもってここに訪れる人もいます。そういう人々を変えることができるとは思いません。しかし、展示のテーマについてこれまであまり考えを持ち合わせなかった中間地帯にある人々を、私たちは念頭に置いています。」とフレミング氏は語った。

"MutilatedChildrenFromCongo" by Alice Harris - King Leopold's Soliloquy: A Defense of His Congo Rule, By Mark Twain, Boston: The P. R. Warren Co., 1905, Second Edition.. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons - 植民者によって腕を切り落とされた若いアフリカ人たちを写した写真について最初は理解できない英国の児童らの集団が博物館を見学したときのことについて、フレミング氏は語った。

写真に関する説明を受けると、児童たちは「民族だけを基準に人間がこれほど恐ろしい行動をとりえるということを理解するようになるのです。」とフレミング氏は語った。

フレミング氏は、世界各地で社会正義に関する展示を見学し、自身の博物館の展示についての情報を広めているという。最近彼は、「記憶を動員する:アフリカの大西洋アイデンティティの創出」という、リバプールで行われた会議において、博物館の役割に関する基調講演を行った。

アフリカ系アメリカ人研究コレギウム(CAAR)」と最近英国で発足した「ブラック・アトランティック研究所」の共催によるこの会議は、6月末にリバプール・ホープ大学で開催された。

この会議は、米ノースカロライナ州の歴史あるエマニュエル・アフリカン・メソジスト・監督教会で白人青年が9人の黒人信者を射殺した事件から数日後に開かれた。

今回の乱射事件は、この数年間にアフリカ系アメリカ人を対象に起こった数多くの暴力的な事件の一つとなった。会議参加者はこの事件から問題の切迫感を痛感するとともに、アクティビズムに関する議論を活発化させた。とりわけ、社会正義や人権をめざす闘いにおいて記憶を保存し「活性化」する点で、作家やアーティスト、学者が果たせる役割についての活発な議論が行われた。

メリーランド大学(ボルチモア郡)のジェームズ・スモールズ教授(美術史・博物館研究)は、「芸術家、さらに言えば博物館は、一部の人々が呼ぶところの『表象の責任』を負っており、それに向き合わねばなりません。」と指摘したうえで、「芸術家は自分の属する民族集団やコミュニティのために自動的に語るものだと考えられています。しかしそうした考えに従おうとする人もいれば、そこから距離を取ろうとする人もいるのが現実です。」と語った。

コロラド大学のクレア・ガルシア教授は、多くの学者にとって、学者の領分と考えられる領域において、「学問とアクティビズムとの間には必ずしもつながりはありません。」、と語った。

「そうした考えの人々にとっては、学問とは『理論的』かつ『普遍的』なものであって、政治的であったり、『特定集団の窮状』に焦点を当てるようなものであってはならないのです。」とガルシア氏は指摘した。しかし、こうした立場は、ある民族集団の「問題を数多く抱えた人間的状況から切り離された時」、さらなる問題を生み出すという。

「社会正義」のために立ちあがる博物館という考え方は、この問題が世界の様々な場所で様々に考えられているために、物議を醸すこととなる。「客観化することと教育すること」との間の線引きもまた、議論を生む課題である。

"Humanzoogermany". Licensed under public domain via Wikimedia Commonsフレミング氏は、「例えばリバプール国立博物館は、「人間動物園」で展示された黒人演者に焦点をあて物議を醸した「展示B」をやることなどなかっただろう。」と語った。この展示企画は明らかに、人種差別と奴隷制を非難することを目的としたものであったが、逆に、ロンドンやパリなどの都市で2014年に抗議活動を招くことになった。

「個人的には私はこうしたことが大嫌いです。今後同じような企画が浮上すれば、私は『反対』に票を投じるでしょう。それは、このテーマが物議を醸し難しい問題だからというのではなく、それが人間の品格を貶め侮辱するものだからです。ここにはあらゆる問題が含まれており、私はこれについてずっと考えてきました。」

フレミング氏や他の学者らは、歴史を「物語る」のは誰かということを深く意識していると語ったが、これは博物館に影響を与える問題でもある。

「アフリカ系アメリカ人研究コレギウム」による会議の一部参加者は、国際奴隷制博物館の一部展示内容について批判を展開した。いったい誰を観客として想定しているのか、誰が展示を選んだのか、などが疑問として出された。

アフリカ大陸に祖先をもつ著名人に焦点を当てた展示セクションは、米国の人気トークショー司会者オプラ・ウィンフリー氏や、著名なアスリート、エンターテイナーで占められており表面的な構成に思えた。

フレミング氏は、「博物館というものは、『やりすぎだ』とか、『まだ不十分だ』とか、両方の批判をしばしば受けるものです。しかし、そこから距離を取ることが答えではありません。なぜなら世界には依然として『エセ中立』博物館が溢れているからです。」と語った。

「最も意義があり興味を呼び起こす博物館は、『道徳的な指針』を示すような施設ですが、そうした博物館が『独力でできることは少ない』ことから、助けを必要としています。」とフレミング氏はIPSの取材に対して語った。彼が代表を務める博物館では、独自の専門能力と観点を展示にもたらしてくれるような非政府組織としばしば協働している、という。

奴隷制のほかにも、世界各地の博物館が、アパルトヘイトカンボジアなどの国における大量虐殺、ラテンアメリカなどの地域で軍事独裁政権期になされた残虐行為等について焦点をあてた取り組みを行っている。

「世界には博物館に変化を求めない国もあります。しかし、リバプールでは、私たちは単に観光目的で博物館を運営しているのではないのです。」とフレミング氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

 

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